
連載コラム第2回:煙突DIY設置に必要な知識と法律・安全基準
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薪ストーブと煙突のDIY設置には、自分の思う通りにやるという自由な楽しさと同時に安全に配慮するという責任が伴います。場合によっては危険を伴う「火」を扱う設備だからこそ、法律や安全基準を正しく理解することが欠かせません。
前回(連載コラム第1回:DIYで煙突・薪ストーブを設置する魅力とは?)に続き今回は、これからDIY設置を考えている方が知っておくべき知識を、主に法律面からわかりやすく整理してお伝えします。
なぜ安全基準が重要なのか?
薪ストーブはとても高温になる暖房機器です。設置方法を誤れば、火災や一酸化炭素中毒といった深刻なリスクを招く可能性があります。そのため、建築基準法、消防法、各製品の安全基準に基づいた施工が必要です。
建築基準法の規定は全国で統一されており、薪ストーブを設置する部屋(室内)の内装制限、換気設備・煙突設置に関する規定が明記されています。
消防法にはストーブ本体の材料、設置する場所と周囲の仕上げ、煙突の構造および取り付けなど、火災予防上安全な距離を保つことが規定されています。火災予防条例は地域事情が反映されるため各市町村によって対応が異なるので、事前に所轄の消防署などに確認しましょう。
火災の原因を知ることで未然に防ぐ
■煙道火災
煙道火災とは、薪ストーブの煙突内部に付着したタールに引火し、煙突の内部で激しく燃え上がる現象。煙道火災が起きると、煙突の内部の温度は1,000℃以上の高熱に達する場合もあります。
煙道火災を予防するために大切なことは煙突内にタールを付着させないことです。そのためには、煙突内の煙の温度を下げないことが重要。排煙温度を下げないことで、タール・煤の付着を少なくすることができます。シングル煙突は外部への放熱が大きいので上部に向かうほど煙の温度が低くなります。煙は外気温との温度差によって上昇(ドラフト)するので、煙の温度が下がることで煙突内のドラフトが弱くなり、最終的には煙突内で停滞してしまいます。
煙の温度を下げないために、薪ストーブには断熱二重煙突を使用する必要があります。万が一煙道火災が起こった際にも断熱処理された煙突は外部に熱が伝わりにくいので火事を未然に防ぐ可能性が高くなります。
また、煙道火災を未然に防ぐためには乾燥した薪(含水率20%以下)を使うことも大切です。未乾燥薪を燃やしても十分に温度が上がらず、不完全燃焼を起こしてタールを作り出して煙突にこびりついてしまいます。安全面からも十分に乾燥した薪を使うことは薪ストーブを使う上でとても重要です。
■低温炭化
通常、木材は400℃くらいで加熱しないと自ら発火しませんが、100℃以下の低温でも長期間熱を受け続けると木材の水分などが蒸発し炭化状態になります。この状態になると150℃程度でも木材に着火することがあります。
目に見える柱、壁などの木材は空気にさらされることで炭化は進みにくく目視でも確認することが出来ますが、壁や天井の内側は見えないだけでなく、空気が動きにくいので熱が溜まりやすく、気付かない間に炭化が進行することがあります。
ストーブの周りをレンガなどの 「不燃材」で覆っているから安心ということではありません。断続的に熱が加わることでそこに蓄熱して、ある日突然壁の内部などから発火することがあります。これが低温炭化火災です。
低温炭化を防ぐためには煙突や薪ストーブから可燃物までは十分な距離をとって設置すること。レンガなどで炉壁を作る場合でも、壁と炉壁の間に25mm以上の空気層を設けることが重要です。
薪ストーブの設置基準と安全な離隔距離
「離隔距離」とは、薪ストーブや煙突から周囲の可燃物までの安全な距離のことです。薪ストーブ本体の離隔距離は、各メーカー・機種によって異なるため、メーカーに確認しましょう。ここでは一般的な木造住宅に薪ストーブを設置する場合に関係してくる法律について解説していきます。建築基準法や消防法の上では薪ストーブは「かまど、こんろ」に該当し家庭用ガスコンロと同様の扱いとなっており、薪ストーブを設置する部屋は、コンロがあるキッチンと同じ火を使用する「火気使用室」の扱いです。
室内仕上げ材料の制限
建築基準法 第35条の2(特殊建築物等の内装)
別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物、延べ面積が千平方メートルをこえる建築物又は建築物の調理室、浴室その他の室でかまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたものは、政令で定めるものを除き、政令で定める技術的基準に従つて、その壁及び天井(天井のない場合においては、屋根)の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければならない。
(引用:e-Gov法令集|建築基準法)
火気使用室の壁や天井などに使う仕上げ材は、準不燃材料または不燃材料に制限されています。内装材に使用される主な準不燃材料または不燃材料は、コンクリート、レンガ、瓦、陶磁器質タイル、繊維強化セメント板、モルタル、漆喰などです。
平成21年に追加された国土交通省告示第225号によって、周囲に一定の防火措置などを行なった場合は制限が緩和されるようになりました。※令和2年の改正により、一戸建ての住宅以外(一部を除き)にも適用。
換気
建築基準法 第28 条の3(居室の採光及び換気)
別表第一(い)欄(一)項に掲げる用途に供する特殊建築物の居室又は建築物の調理室、浴室その他の室でかまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたもの(政令で定めるものを除く。)には、政令で定める技術的基準に従つて、換気設備を設けなければならない。
(引用:e-Gov法令集|建築基準法)
薪ストーブが良好に燃焼するためには新鮮な空気が必要なので、不完全燃焼がおこらないように給気口の設置が義務づけられています。
煙突
建築基準法施行令 第115条(建築物に設ける煙突)
建築物に設ける煙突は、次に定める構造としなければならない。
一 煙突の屋上突出部は、屋根面からの垂直距離を六十センチメートル以上とすること。
二 煙突の高さは、その先端からの水平距離一メートル以内に建築物がある場合で、その建築物に軒がある場合においては、その建築物の軒から六十センチメートル以上高くすること。
三 煙突は、次のイ又はロのいずれかに適合するものとすること。
イ 次に掲げる基準に適合するものであること。
(1) 煙突の小屋裏、天井裏、床裏等にある部分は、煙突の上又は周囲にたまるほこりを煙突内の廃ガスその他の生成物の熱により燃焼させないものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものとすること。
(2) 煙突は、建築物の部分である木材その他の可燃材料から十五センチメートル以上離して設けること。ただし、厚さが十センチメートル以上の金属以外の不燃材料で造り、又は覆う部分その他当該可燃材料を煙突内の廃ガスその他の生成物の熱により燃焼させないものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いる部分は、この限りでない。
ロ その周囲にある建築物の部分(小屋裏、天井裏、床裏等にある部分にあつては、煙突の上又は周囲にたまるほこりを含む。)を煙突内の廃ガスその他の生成物の熱により燃焼させないものとして、国土交通大臣の認定を受けたものであること。
四 壁付暖炉のれんが造、石造又はコンクリートブロック造の煙突(屋内にある部分に限る。)には、その内部に陶管の煙道を差し込み、又はセメントモルタルを塗ること。
五 壁付暖炉の煙突における煙道の屈曲が百二十度以内の場合においては、その屈曲部に掃除口を設けること。
六 煙突の廃ガスその他の生成物により、腐食又は腐朽のおそれのある部分には、腐食若しくは腐朽しにくい材料を用いるか、又は有効なさび止め若しくは防腐のための措置を講ずること。
七 ボイラーの煙突は、前各号に定めるもののほか、煙道接続口の中心から頂部までの高さがボイラーの燃料消費量(国土交通大臣が経済産業大臣の意見を聴いて定めるものとする。)に応じて国土交通大臣が定める基準に適合し、かつ、防火上必要があるものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものであること。
2 前項第一号から第三号までの規定は、廃ガスその他の生成物の温度が低いことその他の理由により防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める基準に適合する場合においては、適用しない。
(引用:e-Gov法令集|建築基準法施行令)
煙突からの距離、煙突部分の内装材について定められています。つまり、煙突は可燃材料から15cm以上離し、小屋裏や壁貫通部分では周囲を金属以外の不燃材料(珪酸カルシウム板など)で覆う必要があります。
法律を遵守すれば安全?
この煙突に関する法律が施行されたのが昭和25年。当時はステンレス製の断熱二重煙突というものは存在していなかったと思われます。そのためシングル煙突も断熱二重煙突も同じ「煙突」としての扱いです。全く性能が異なるものが同じ扱いというのはおかしいですよね。
そもそもシングル煙突を使用した時の離隔距離が15cmというのは到底安全とはいえません。法律を遵守することは大切ですが、この法律自体が古く、実際の煙突の安全基準との乖離がかなりあります。そのため通常は法律とは別に安全基準を設けて煙突施工を行うことになります。
それでは次回は実際の安全基準に基づいた煙突について詳しくお話ししたいと思います。
次回:「薪ストーブ煙突の選び方」へ続きます。(予定)