
薪ストーブに向くのは広葉樹薪だけで針葉樹薪は使えない?-薪を利用するということ
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日本で手に入りやすい薪といえば、針葉樹だとスギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツなどが頭に浮かびます。広葉樹なら、ナラ、カシ、クヌギ、ケヤキ、ブナ、サクラなどでしょうか。
薪ストーブの燃料となる薪を使う際には、これらをどのように選べば良いのでしょうか?
針葉樹と広葉樹の特徴
針葉樹と広葉樹、比重(密度)で見ると針葉樹は0.35〜0.55くらい、広葉樹は0.6〜0.85くらいになります。一般的に広葉樹は針葉樹よりも重く、樹脂も少ないので昔から薪炭として多く利用されてきました。
薪をエネルギーとして見ると、そのカロリーは針葉樹も広葉樹も単位量的には大きな差はありません。しかし体積で考えると針葉樹は比重が小さく軽いので嵩高になります。これは燃焼時間にも影響するので、投入回数や薪の保管場所の問題に関わってきます。
この点では密度の高い広葉樹のほうがゆっくりと長く燃えて、保管スペースの面でも有利だといえます。しかし針葉樹は割りやすさ、乾燥のしやすさ、火付きの良さというメリットがあります。
こうして考えると、広葉樹・針葉樹を樹種だけでどちらが薪に適しているかを判断するのではなく、それぞれの性質を理解して上手く使いこなすのが薪ストーブを使う上で大切になってきそうです。
スギ | 0.38 |
ヒノキ | 0.41 |
カラマツ | 0.5 |
アカマツ | 0.53 |
ヤマザクラ | 0.6 |
ケヤキ | 0.62 |
ブナ | 0.63 |
ナラ | 0.67 |
クヌギ | 0.85 |
アカガシ | 0.92 |
薪は乾燥しているかどうかが重要
薪ストーブについてよくある質問に、「広葉樹は薪に適していて、針葉樹は使えない?」というのがあります。発熱量や火持ちなど特性はありますが、大切なのはしっかり乾燥しているかどうか。薪は乾燥が命です。
含水率は最低でも20%以下、できれば15〜18%くらいまで乾燥させたいところ。この含水率まで持っていくのに広葉樹だと2年かかりますが、スギやヒノキなどの針葉樹だと1年以内、条件が良ければ半年程度で薪として利用することができます。
適材適所で使い分ける
薪ストーブの薪は必要以上に広葉樹にこだわることはありません。十分に乾燥さえすればどんな樹種でも薪として利用することができます。着火性の高い針葉樹をスターターとして使って一気に温度を上げていき、燃焼室の温度が上がれば密度の高い広葉樹をくべる、といった使い方もそれぞれの特徴を活かした良い利用方法ですね。
日本は南北に長い国土で古くから薪を燃料として利用してきたので、それぞれの地域に昔から伝わる薪に適した樹種もあるはずです。地域の伝承や歴史も踏まえて、薪にする樹種を多角的に理解することで得られる知識は、薪ストーブのある生活により深みをもたらしてくれます。薪作りも単なる作業ではなくよりクリエイティブな活動になっていくでしょう。
薪づくりに最適なシーズンは?
薪ストーブ用の薪づくり、いつ行っていますか?支障木伐採や工事伐採などで出た木を譲ってもらうなどの入手方法では原木入手のタイミングは選べませんが、基本的に晩秋から冬にかけて伐採した木を使うことが理想です。晩秋から冬の時期には、樹々は自らの水分を捨てて活動停滞期に入ります。そのためこの時期に伐採すれば水分が少なく乾燥も容易で、腐るリスクも少なくなります。
伐採した木を放置すれば、その時点から腐敗が始まります。原木はなるべく早く山から出し、水分のあるうちに薪に仕上げます。水分が抜け出すと繊維が絡み割りにくくなるので、得に斧で薪割りをする場合はなるべく早く割るようにしましょう。
夏の陽射しは薪の乾燥促進に都合が良い時期です。したがって薪づくり作業は冬から春にかけて行うのが適期と言えます。何より真夏の薪づくり作業は過酷です。薪づくりは梅雨入り前までに終わらせると良いでしょう。
薪ストーブと環境問題
昨今は地球温暖化の原因として二酸化炭素の増加が挙げられ、削減にしようという動きになっています。薪ストーブは燃料として薪を燃やします。燃やせばCO2が出てしまいます。では薪ストーブは環境にとってマイナスなのでしょうか?
そもそも温暖化の原因がCO2の増加だけでは無いとは思いますが、薪を使うことはCO2を増やすことも減らすこともないのです。森の木は十分な大きさになるまで空気中のCO2を吸収して育ちます。そして、20〜30年後には成長した木が薪になり、燃焼時にCO2を出します。そして排出されたCO2はまたもとの森に吸収されます。このサイクルにより結果的に地球上のCO2の量は変わることはありません(カーボンニュートラル)。
森林の再生速度を超えない範囲で利用する薪は、半永久的に再生を繰り返すことができる、とても貴重な資源です。
増加する、手入れされない「放置林」
都市部に暮らす人たちには実感がないかもしれませんが、日本は深刻な“放置林”問題を抱えています。日本は、国土面積のおよそ2/3(約2,500万ha)を森林面積が占める森林大国です。おもに人工林と天然林の2種類に分けられ、そのうちの約40%に相当する1,000万haが人工林です。
人工林は主に木材の生産目的で人の手によって育てられた森林で、そのほとんどがスギやヒノキなどの針葉樹です。自然の森ではない人工林は人の手で適切に管理される必要がありますが、長年手入れされず放置されて荒廃が進んでいるのが「放置林」。この放置林が全国で増加しています。
戦後の日本では、木材需要の増加を見越してスギやヒノキの大規模な植林が行われ、日本の木材需要を支える重要な役割を果たしてきました。しかし経済成長による生活様式の変化や輸入木材の増加などにより国内の木材需要は低迷。その結果、林業からひとが離れ、林業は衰退の一途を辿っています。従事者の高齢化も深刻です。従事者が減るとその地域の過疎化も進みます。
薪を利用することが森の再生につながる
薪、とくに針葉樹薪を利用することで身近な森をもっと有効活用できないでしょうか。山から木を切り出すことで地域林業は活性化し、薪の流通量が増えることで従事者が増え、関連産業の創出による雇用も生まれて地域経済の活性化につながります。
人の手が入ることで森林環境が改善され、土砂災害リスクも低下。明るい森は周辺住民にとっても心安らぐ癒しの場になります。そしてもちろん、薪ストーブの温かさや、薪を燃やす炎のゆらぎはリラックス効果をもたらし、生活の質を向上させます。薪ストーブ、薪の利用は地域に良い影響を波紋のように広げる、そんな可能性を秘めているのではないでかと感じています。